SCP-173 “The Sculpture” (オリジナル) 徹底解説レポート:瞬きが招く静寂の死と起源の恐怖

第1章:始まりの怪物 – コンクリートの悪夢

1.1 原初的恐怖の具現化:物質的構成と外見的特徴

SCP財団という巨大なシェアワールドにおいて、「全ての始まり」として神格化されている存在、それがSCP-173、通称「彫刻(The Sculpture)」です。数千を超える異常存在(アノマリー)が登録されている現在においても、このオブジェクトが放つ存在感は別格であり、その恐怖の源泉は、皮肉にもその「あまりにありふれた構成物質」にあります。

SCP-173の外見は、美術室の片隅に放置された未完成のオブジェを彷彿とさせます。その体躯は、建設現場であればどこにでも転がっているコンクリートと**鉄筋(rebar)**によって構成されています 。高度な未知のテクノロジーや、地球外の生体組織、あるいは霊的なエクトプラズムなどは一切含まれていません。ただの、冷たく硬い、工業用資材の塊なのです。   

表面には、クライロン(Krylon) ブランドのスプレー塗料によって、稚拙とも言える塗装が施されています 。顔面と思われる部位には、黒いスプレーで「目」と「口」のような模様が描かれており、その他にも赤や黄色の色彩が不規則に吹き付けられています。この塗装は、意図的な芸術表現というよりも、何者かがコンクリートの塊に対して悪戯書きをしたかのような、荒々しさと不気味さを漂わせています。   

1.1.1 加藤泉氏のアートワークと「無機質な視線」

かつて、このSCP-173の報告書には、日本の現代アーティストである加藤泉氏の作品『無題 2004』の写真が掲載されていました 。その作品は、巨大な頭部、ずんぐりとした四肢、そして焦点の合わない大きな目を持つ、胎児や異形を思わせる木彫とアクリル彩色の立体作品でした。   

SCP-173の概念において、この視覚的イメージは極めて重要な役割を果たしました。コンクリート製であるというテキスト上の設定と、加藤氏の作品が持つ「人間によく似ているが、決定的に人間ではない」という**不気味の谷(Uncanny Valley)**の効果が融合し、読者に生理的な嫌悪感と恐怖を植え付けたのです。その虚ろな眼差しは、観察者を見ているようでいて、その実、観察者の「視線が外れる瞬間」を虎視眈々と狙っているかのような緊張感を醸し出していました。

現在は権利上の理由によりその画像は削除されていますが、SCP-173と言えばあのシルエットを想起するファンは後を絶ちません。それは、あの形状こそが「動かないはずのものが動く」という根源的な恐怖を体現していたからに他なりません。

1.2 SCP-173 基本ステータス詳細

SCP-173の脅威性を客観的に理解するために、財団のデータベースに基づいた詳細なステータスを以下に整理します。

項目詳細データ備考
アイテム番号SCP-173The Sculpture (彫刻)
オブジェクトクラスEuclid (ユークリッド)予測不能な挙動を示すため、完全な安全(Safe)ではない
起源不明1993年にサイト-19へ移送された記録あり 
構成物質コンクリート、鉄筋表面にKrylon製スプレー塗装の痕跡
異常特性生きた彫像 (Animate)視線を外すと超高速で移動する
敵対性極めて高い (Extremely Hostile)全ての人間に対して無差別に攻撃を行う
殺害方法頸椎圧折 (Snapping the neck)頭蓋底を一撃でへし折る、または絞殺
移動速度超高速 (瞬間移動に近い)瞬き1回の間に数メートルを詰めることが可能
弱点直視 (Direct Line of Sight)視界に入っている間は量子的に固定され動けない

この表が示すのは、SCP-173が「知性」や「目的」を持っているかどうかが不明であるにもかかわらず、その行動原理が「殺戮」に特化しているという事実です。Euclidクラスに分類されているのは、その封じ込めが比較的容易である(見ているだけでよい)反面、ひとたび手順を誤れば即座に死傷者を出し、収容違反を引き起こす予測不可能性ゆえです。

1.3 「生きている」コンクリートの聴覚的恐怖

SCP-173は有機生命体ではありませんが、紛れもなく「生きて」います。その証拠として、報告書には背筋が凍るような記述があります。

“Personnel report sounds of scraping stone originating from within the container when no one is present inside.” (内部に誰もいない時、コンテナの中から石が擦れる音がすると職員から報告されている。)    

分厚い防爆扉の向こう側、完全な暗闇となった収容室の中で、SCP-173は動き回っているのです。ガリガリ、ゴリゴリと、コンクリートの身体を床や壁に擦り付けながら。それは徘徊しているのか、あるいは壁の向こうにいる人間を感知して、出口を探して苛立っているのか。 「誰も見ていない時だけ動く」という特性上、この音は「今、怪物が自由に動いている」という事実を聴覚的に突きつけてきます。研究員たちはモニター越しにその姿を確認することはできません(カメラも「視線」とみなされるため、あるいは後述する汚物によりカメラが機能しないため)。ただ、マイクが拾う無機質な摩擦音だけが、そこに「何か」がいることを証明し続けているのです。


第2章:瞬き禁止 – 視線による封じ込めプロトコル

SCP-173を象徴する、そしてSCP財団というジャンルを決定づけたルール。それが**「視界に入っている間は動けない」**という特性です。これは、子供の遊びである「だるまさんが転んだ」を、失敗即死の極限状況へと昇華させたものです。

2.1 観測者効果と量子的凍結

SCP-173の不動性は、量子力学における**「観測者効果」**をマクロなスケールで適用した現象と考えられています 。素粒子が観測されるまで位置が確定しない(波動関数として存在する)ように、SCP-173は「観測」されている間だけ、その形態を「彫像」として固定されます。 しかし、観測が途切れた瞬間、すなわち視線(光子の相互作用)が途絶えた瞬間、SCP-173は物理法則を無視した状態へと移行します。その移動速度は常軌を逸しており、数メートルの距離を一瞬でゼロにします。これは単純な高速移動というよりは、空間転移や時間跳躍に近い現象かもしれません。   

2.2 「瞬き(Blink)」の致命的リスクと3人体制

この特性に対し、人類が持つ最大の生理的欠陥が**「瞬き(Blink)」**です。 人間は無意識のうちに数秒に一度、眼球の乾燥を防ぐために瞬きを行います。その時間はわずか0.1秒から0.4秒程度。しかし、SCP-173にとってはその刹那の闇こそが、獲物の首をへし折るための十分な猶予となります。

そのため、SCP-173の収容室に入室する際は、以下の厳格なプロトコルが義務付けられています 。   

  1. 最低3名の人員で入室すること。
  2. そのうち2名は、いかなる時もSCP-173を直視し続けること。
  3. 残る1名が作業(清掃や点検)を行う。
  4. 退室し、再施錠するまで視線を外してはならない。

なぜ3名なのか? それは「瞬き」の同期ズレを防ぐためです。 「瞬きするぞ!」と大声で警告し合い、一人が目を閉じている間、他の二人が目を見開く。この連携が崩れれば、全員が肉塊へと変わります。極度の緊張状態において、人間の自律神経は乱れ、眼球は乾き、痙攣します。その生理現象との戦いが、SCP-173封じ込めの核心なのです。

2.3 【シミュレーション】閉鎖空間での孤立体験

想像してください。あなたはDクラス職員です。オレンジ色のジャンプスーツを着せられ、モップを持たされて、薄暗いコンクリートの部屋に放り込まれました。 背後の重厚な鉄扉が閉まる音が、死刑宣告のように響きます。本来なら3人で入るはずが、システムエラーによりあなた一人だけが取り残されてしまいました。

部屋の中央には、あの彫像が佇んでいます。壁を向いて立っていたはずが、あなたが振り返った瞬間、すでにこちらを向いています。 距離は5メートル。 あなたは目を見開きます。恐怖で心臓が早鐘を打ち、呼吸が浅くなります。 (見ていれば動かない。見ていれば動かない。) そう自分に言い聞かせますが、生理的な限界はすぐに訪れます。

10秒経過。目が乾き始め、刺すような痛みを感じます。 20秒経過。視界が滲み始め、涙が溢れてきます。 30秒経過。眼輪筋がピクピクと痙攣し、強制的に瞼を閉じさせようとします。

「助けてくれ!」と叫ぼうとしますが、喉が張り付いて声が出ません。 彫像は動きません。ただ無機質な顔で、あなたが限界を迎えるのを待っています。 あなたは片目ずつ瞬きをしようと試みます。右目を閉じ、左目で見――いや、視界の端で何かが動いた気がする恐怖で、両目を開けてしまいます。 限界です。涙で視界が歪み、彫像が揺らいで見えます。 そして、耐えきれず、あなたの両瞼が落ちます。

「 」

暗闇の中で、風を切る音すら聞こえません。 次にあなたが認識するのは、首の骨がへし折られる乾いた音と、自分の視界が90度傾いているという現実だけです。意識が途絶えるまでの数秒間、あなたは自分の背中を見ることになるかもしれません。

2.4 ホラーゲーム『SCP: Containment Breach』における「ブリンクメーター」

この「瞬きへの強迫観念」をゲームシステムとして完璧に再現したのが、インディーホラーゲーム**『SCP: Containment Breach』です。 このゲームでは、画面下部に「ブリンクメーター(瞬きゲージ)」**が表示されます 。   

  • 自動減少: ゲージは時間と共に減少し、ゼロになると強制的に瞬き(画面暗転)が発生します。
  • 手動瞬き: プレイヤーはスペースキーで任意のタイミングで瞬きを行い、ゲージをリセットできます。
  • 環境要因: ガスマスクを装着しないままガス充満エリアに入ると、目が刺激され、ゲージの減少速度が加速します。

プレイヤーはSCP-173と対峙した際、後ずさりしながらドアを開けつつ、このゲージ管理を行わなければなりません。 「あと少しでドアが開く」というタイミングでゲージが尽きる絶望。 SCP-173が瞬きのたびに距離を詰め、”ダルマさんが転んだ”のように迫ってくる恐怖。 このシステムは、プレイヤーに「人間の生理機能こそが最大の弱点である」ことを痛感させました。

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