【封印された一家】森家 ──喰われた村と、消えた探索者

第一章 森家の伝説

九州の山間に「森谷(もりだに)」という集落があった。
戦後間もない時代、地図にも載らず、外界から隔絶されたその土地には「森家」と呼ばれる一家が暮らしていたという。
父母、祖母、そして三人の子供。村との交流を絶ち、畑を耕し、獣を狩って静かに暮らしていた。

だが、ある時期を境に峠を越えた旅人が次々と姿を消した。
行商人、猟師、役場の検査員。
誰も帰ってこなかった。

村人たちは恐れ、森家の家に近づくことをやめた。
それでも夜になると、山の奥から獣を焼くような匂いが漂ってきたという。
──それが人の肉だったのかどうか、確かめる者はいなかった。

そしてある夜、森家の屋敷が突然燃え上がった。
山火事のような炎。
翌朝、家も家族も跡形もなく消えていた。

以来、村ではこの話を口にすることを禁じた。
「森家を語ると、呼ばれる」と。


第二章 封印された谷に向かう二人

2023年、心霊探索チャンネル「裏界フィールド」がSNSで話題になった。
メンバーは エレナ(26)エイト(28)
彼らは都市伝説や廃墟を巡り、恐怖体験を“リアル”として記録していた。

そしてある日、視聴者から一通のメッセージが届く。

「森谷の奥に、人喰い一家の跡が残っている。
地元の人は誰も近づかない。」

エイトは笑った。

「再生数が稼げそうじゃん。行ってみようぜ。」

エレナは不安そうに言った。

「“森家”って、聞いたことある。
行方不明者が出てる話、たしか――」

だが、止めることはできなかった。
彼らはカメラを三台用意し、ドローンと録音機材を持ち、
“封印された森谷”へと向かった。


第三章 森家の屋敷跡

夜。
霧が濃く、林道には獣の足跡のような泥跡が続いていた。
携帯の電波は途絶え、周囲は異様に静かだった。

エイトが先を歩く。
ライトの光が木々を照らし、黒ずんだ屋敷の輪郭を浮かび上がらせた。

「……あったな、森家の家。」

崩れた屋根。
黒焦げの柱。
扉には五寸釘が十字に打ち込まれ、赤い布が巻かれていた。
それはまるで、“中に何かを封じている” ように見えた。

だが、エイトは布を破り、扉を開けた。

中は湿った土の匂い。
柱に貼られた古いお札、焦げた鍋、骨のような白い破片。

「……これ、人の骨じゃないよね?」
エレナが声を震わせる。

「鹿のだろ。行こう、地下に階段がある。」

二人は懐中電灯を片手に、暗闇の階段を下った。


第四章 地下の儀式場

階段を降りた先は、異様に広い空間だった。
天井から吊るされた数十本のロープ。
その先には乾いた藁人形が無数に揺れている。

壁には墨で書かれた文字があった。
「喰ラレシ者」「祈リ」「血」「魂」……。

中央には囲炉裏のような穴があり、その周囲に並ぶ奇妙な壺。
壺の中には乾いた塊が詰められ、指輪や歯が混じっていた。

「なにこれ……儀式?」
——エレナ

「映えそうだな、全部撮っておこう。」
——エイト

彼がカメラを構えた瞬間、照明が一瞬消えた。
そして――暗闇の奥で、何かが動いた。

「……誰かいるの?」

返事はなかった。
ただ、吊るされた藁人形が、一斉に揺れ始めた。


第五章 森家の声

録音された音声には、はっきりと人の声が入っていた。

「まだ……足りぬ……」
「血ヲ……返セ……」

エイトが叫ぶ。
「走れ!!」

カメラが揺れ、ライトが転がる。
映像にはエレナが出口に向かって走る姿が映る。
だが、背後の壁には無数の手形が浮かび上がっていた。

外に出た瞬間、家が崩れ落ちる音がした。
エレナは振り返ったが、エイトの姿はなかった。

カメラには、地面に落ちたスマートフォンが映っている。
その画面には「REC」の赤い点が点滅し続けていた。


第六章 失踪と映像

三日後、地元警察が捜索に入った。
森家跡地の近くで、エレナの荷物と血のついた靴が発見された。
エイトの姿は見つからなかった。

ただ、壊れたカメラから映像データが一部復元された。
最後の数秒には、囲炉裏の前に立つ二つの影が映っている。
片方はエイト、もう片方は顔のない女。

その女の肩に、エレナの声 が重なっていた。

「……エイト、見て……“家族”が……増えたよ……」


第七章 その後

動画はネットに一瞬だけ投稿され、すぐ削除された。
チャンネル「裏界フィールド」も消滅し、二人の記録は残っていない。
だが、匿名掲示板にはこうした書き込みが残っている。

「あの映像、再生したら部屋のライトが揺れた。」
「森家の地下の音……耳鳴りが止まらない。」
「再生回数が1増えるたびに、誰かの顔が消えていく。」

地元の古老によると、森家は“人を喰らい、魂を家に封じる”一族だったという。
だから今も、屋敷は呼び続けている。
新しい“家族”を。


投稿主コメント

夜中にこの記事を書いていたら、玄関のチャイムが鳴った。
モニターを確認したら、誰もいなかった。
ただ、ドアの前に小さな藁人形が落ちていた。

釘が、一本足りない。

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