SCP-106 “The Old Man” (オールド・マン) 徹底解説レポート:腐敗、苦痛、そして終わらない塹壕戦

序文:触れてはならない「腐敗」の深淵へ

本レポートは、SCP財団がその歴史の中で確保・収容・保護(Secure, Contain, Protect)してきた数多のアノマリーの中でも、特に高い危険度と極めて不快な物理的特性、そして倫理を揺るがす収容プロトコルで知られるSCP-106(通称:”The Old Man” / オールド・マン)に関する、包括的かつ徹底的な調査報告書である。

読者諸君におかれては、これより記述される内容が単なる「怪談」や「インターネット・ホラー」の域を超えた、極めて粘着的で、嗅覚を刺激するような不快なリアリティを伴うものであることを覚悟されたい。SCP-106は、単に人を殺害する捕食者ではない。彼は物質を腐らせ、空間を歪め、物理法則を嘲笑いながら、犠牲者を「ポケット・ディメンション」と呼ばれる絶望の迷宮へと引きずり込む、純粋なサディズムの具現化である。

本稿では、財団内部の機密アーカイブ、流出した研究ログ、目撃者の証言、そして幾多の犠牲(Dクラス職員のみならず、優秀な研究員や機動部隊員を含む)の上に確立された非人道的な特別収容プロトコルを徹底的に解剖する。なぜ彼が最高危険度の「Keter(ケテル)」クラスに分類されるのか。なぜ彼を収容するために、生きた人間の大腿骨を砕く必要があるのか。そして、その腐った肉体の奥底に眠る、第一次世界大戦の泥濘と硝煙に由来するとされる悲劇的な起源について、可能な限りの詳細を提供する。


第1章:腐敗する捕食者 – 粘液と崩壊

1.1 ビジュアルと生理的嫌悪の極致

SCP-106の視覚的特徴は、人間の根源的な「死」と「穢れ」への恐怖を直接的に刺激する。外見上、彼は高度に腐敗した高齢の男性ヒューマノイドである。身長は可変的だが、通常は175cmから180cm程度に見積もられる。しかし、その姿勢は猫背であったり、異常な角度で関節が曲がっていたりと、一定しない。   

皮膚は壊死し、黒ずみ、所々が剥がれ落ちて下層の赤黒い筋肉や白骨が見え隠れしている。だが、これは自然界における死体現象とは決定的に異なる。彼はその状態で「生きている」のだ。眼窩には眼球がなく、代わりに虚ろな闇が広がっているか、あるいは白濁したゼラチン状の物質が詰まっていることが確認されている。   

彼が現れる数分前から、周囲の空気は重く淀み始める。目撃者の共通した証言によれば、そこにはカビと湿った地下室、腐った肉、そして古い排水溝が混ざったような、鼻腔にこびりつく強烈な悪臭が漂うという。この臭気は防護服のフィルターすら短時間で貫通し、研究員たちに激しい吐き気と頭痛をもたらす。   

1.2 「黒い粘液」と接触腐食のメカニズム

SCP-106の異常性の核心は、その体表から絶えず分泌される**「黒い粘液」**にある。これは単なる体液ではなく、極めて攻撃的な性質を持つ異常物質である。

  • 接触腐食(Corrosion): SCP-106が触れたあらゆる固体物質は、接触から数秒以内に物理的な崩壊を開始する。この現象は「前消化(pre-digestion)」とも呼ばれ、有機・無機を問わない。
    • 金属: 鋼鉄でさえも、接触した瞬間から急速に酸化が進み、赤錆の粉末となって崩れ落ちる。
    • コンクリート: 水分を失ったかのように脆くなり、黒い砂礫へと還元される。
    • 有機物: これが最も恐ろしい。人体が触れれば、皮膚は火傷のようにただれ、筋肉は液状化し、骨はスポンジのように軟化する。この腐食プロセスは接触後約6時間持続し、対象物を完全に破壊するか、「燃え尽きる」まで続く。   

この粘液は、彼が歩いた後に黒い足跡として残り、壁や床を汚染し続ける。財団の清掃クルー(主にDクラス)にとって、この残留物の処理は死と隣り合わせの作業である。

1.3 透過能力と神出鬼没の恐怖

SCP-106は物理的な障壁を「壁」として認識していない。彼にとって、壁や閉ざされたドア、床、天井は、すべて「水面」のようなものである。彼は固体物質の中に沈み込み、姿を消し、全く別の場所から音もなく浮き上がることができる。   

この**「透過(Phasing)」**能力は、対象物を物理的に破壊して穴を開けるのではなく、一種の次元跳躍現象であると考えられている。彼は壁の表面にある地点から「入り」、自身の支配領域であるポケット・ディメンションを経由して、壁の裏側や別の部屋へと「出る」。 想像してほしい。あなたは厳重にロックされた部屋にいる。ドアは厚さ20センチの鋼鉄製だ。しかし、ふと見上げると、天井に黒い染みが広がっている。染みは急速に拡大し、そこから腐った老人の頭部が、まるで沼地から顔を出すように逆さまに垂れ下がってくるのだ。物理的な壁が意味をなさないこの絶望感こそが、SCP-106と対峙した者が味わう最大の恐怖である。

1.4 捕食行動:狩りと嗜虐性

SCP-106は生物学的な栄養摂取を必要としていないように見える。彼の行動原理は「食欲」ではなく、純粋な**「狩猟本能」と「サディズム」**に基づいている。   

  • ターゲット: 特に10歳から25歳の若く健康な人間を好んで標的とする。これは、彼らが苦痛に対して最も激しい反応を示し、長く「遊べる」からだと推測されている。   
  • 攻撃手法: 彼は獲物を即座に殺害することは稀である。まず、主要な筋肉群や腱(アキレス腱など)を腐食させて破壊し、獲物の逃走能力を奪う。そして、恐怖に歪む獲物の顔を観察しながら、動けなくなった肉体を自身の影や腐食した床の「穴」へと引きずり込む。   
  • 活動サイクル: SCP-106は3ヶ月程度の「休眠期」と、活発に獲物を求める「活動期」を繰り返す。休眠期には完全に静止しているが、これは獲物を油断させるための擬態である可能性が高い。   

【SCP-106 基本ステータス・特性表】

項目詳細データ備考
オブジェクトクラスKeter収容は極めて困難であり、脱走リスクが常時存在する。
外見的特徴高度に腐敗した高齢男性。身長約1.75-1.8m (変動あり)常に黒い粘液に覆われている。
主な異常性接触腐食、固体透過、異次元移動、壁面歩行物理攻撃はほぼ無効。
移動速度通常時は緩慢だが、攻撃時や壁面移動時は瞬発力を発揮獲物を追い詰める際は、あえてゆっくり歩くこともある。
腐食潜伏時間接触から数秒で物理的崩壊が開始生体組織の場合、即座に壊死と溶解が始まる。
腐食持続時間接触後、約6時間継続腐食反応が終了するまで、対象物は劣化し続ける。
活動サイクル3ヶ月程度の休眠期 ⇔ 活動期休眠明けは極めて凶暴性が増す。
弱点・忌避物鉛、液体(混乱する)、複雑な構造、強烈な光(80,000ルーメン以上)これらが収容プロトコルの基礎となっている。
起源説ローレンス伍長 (WW1)、ロバート・スクラントン博士 (SCP-3001)複数の説が存在するが、確定的な真実は不明。

第2章:ポケット・ディメンション – 遊び場という名の地獄

2.1 異次元の迷宮構造

SCP-106が獲物を引きずり込む先、通称**「ポケット・ディメンション(Pocket Dimension)」**は、物理法則が適用されない、SCP-106の絶対的な支配領域である。彼が壁や床に沈むとき、あるいは獲物を「穴」に落とすとき、接続されるのはこの空間である。

内部の様子を生還者が語ることは稀だが、断片的な記録や回収された映像データ、およびゲーム『SCP: Containment Breach』等での描写から、そのおぞましい構造が明らかになっている。 空間全体は、終わりのない暗闇と、湿った緑がかった薄明かりに包まれている。壁や床の材質は、現実世界の建材(コンクリート、タイル、壁紙)を模していることもあるが、それらはすべて腐敗し、苔むし、黒い粘液に覆われている。   

  • 非ユークリッド幾何学: 部屋の大きさ、天井の高さ、廊下の長さが観測者の認識とは無関係に変化する。直進していたはずが元の場所に戻っていたり、無限に続く階段を降りさせられたりする。
  • 重力の喪失: 上下感覚が唐突に入れ替わる。床だと思って歩いていた場所が突然壁になり、奈落へと落下する感覚に襲われることが頻繁にある。

2.2 「塹壕」の投影と戦争の傷跡

特筆すべきは、この空間内に頻繁に現れる**「第一次世界大戦の塹壕(Trench)」**のような風景である。 ぬかるんだ泥の道、腐った木板の足場、錆びついた有刺鉄線、そしてどこからともなく聞こえる砲撃のような重低音。上空には巨大な鳥とも飛行機ともつかない黒い影が旋回し、監視している。   

これは、SCP-106の起源(後述する第5章参照)と深く結びついていると考えられている。彼にとって、この空間は自身の過去のトラウマの再現であると同時に、永遠に続く「戦争ごっこ」の舞台なのだ。ここで彼は「将校」であり「捕食者」であり、犠牲者は「敵兵」あるいは「玩具」となる。

2.3 サディズムの極致:時間と苦痛の支配

ポケット・ディメンション内では、時間の流れさえもSCP-106の意のままである。現実世界での数分が、内部では数日、あるいは数週間に感じられることがある。この時間の歪みを利用して、彼は獲物に永遠に近い責め苦を与える。   

ここで彼は全能の「神」として振る舞う。 捕らえられた獲物は、即座に殺されることはない。SCP-106は獲物の肉体を、まるで粘土細工のように弄ぶ。

  • 肉体の改変: 臓器の位置を入れ替える、骨を溶かして軟体動物のようにする、皮膚を剥いで別の場所に縫い付ける。
  • 精神的拷問: 出口に見せかけた罠を無数に用意する。光が見える廊下の先に進むと、また106の待つ部屋に戻される。希望を与えては絶望の底に突き落とす「キャッチ・アンド・リリース」を繰り返すことで、獲物の精神を完全に破壊する。

SCP財団の記録には、ポケット・ディメンションから奇跡的に「解放」された(あるいは捨てられた)元職員の凄惨な遺体の記述が残されている。ある者は全身の骨が消失しており、ある者は肺の中にガラス片と泥が満たされていた。それらはすべて、SCP-106による「遊び」の結果である。

2.4 Tale『Treats』に見る狩りの実態

Tale「Treats(お菓子)」では、SCP-106がハロウィンの夜に脱走し、屋外で若者を狩る様子が描かれている。 被害者の少女は、森の中で木に奇妙な腐食(黒い粘液と穴)を発見し、直後に背後から襲われる。106の手は、彼女の背中の筋肉に「子供がケーキに手を突っ込むように」容易に侵入し、肋骨を内側から愛撫するように触れる。彼女は激痛の中で、自分の体が地面の泥と融合し、引きずり込まれていく感覚を味わう。 この描写は、106が単なる力任せの怪物ではなく、獲物の肉体の構造を熟知し、最も苦痛を与える方法で「触れる」ことを楽しんでいることを示唆している。   


第3章:収容不可能な怪物 – 多重の檻

3.1 物理防御の無意味さと「遅延戦術」

前述の通り、SCP-106はあらゆる固体を透過・腐食させるため、通常の「分厚い壁」で閉じ込めることは不可能である。彼にとって壁は障害物ではなく、移動のための通路に過ぎない。 したがって、現在の収容プロトコルは「完全な封じ込め」ではなく、**「脱走の遅延」と「混乱」**に主眼が置かれている。財団は彼を閉じ込めるのではなく、彼が「出るのが面倒くさい」と感じる環境を作ることに全力を注いでいる。

財団の研究により、以下の特性が判明しており、これらが収容設計の基礎となっている:   

  1. 鉛(Lead)への抵抗: 彼は鉛や類似の重金属を透過する際、わずかに抵抗を感じ、速度が低下する。
  2. 複雑な構造への混乱: 単純な分厚い壁よりも、薄い層を何重にも重ねた構造や、ランダムな配置の障害物は、彼の透過プロセスを複雑化させ、混乱させる。
  3. 液体への嫌悪: 液体中を浮遊・移動する際、彼は方向感覚を失い、混乱する傾向がある(「水」を透過するという概念が適用しづらいためと考えられる)。
  4. 強光: 80,000ルーメン以上の直接的かつ急激な光を浴びると、嫌悪感を示してポケット・ディメンションへ退避する習性がある。

3.2 収容セル「ELO-IID」の構造

これらの弱点を組み合わせ、SCP-106のために設計されたのが、異常に複雑で維持コストの高い収容施設である。その構造は「檻」というよりも、巨大な工業プラントに近い。

【SCP-106 収容セルの階層構造図解】

層(レイヤー)構成物質・構造役割・機能
一次収容セル (Inner Cell)鉛で内張りされた鋼鉄製の密封コンテナ最初の障壁。鉛による透過速度の低下を狙う。
多重シールド (Shielding)40層の鉛・鋼鉄積層板。各層の間には36cm以上の空隙。「薄い層の連続」により、106に何度も「入る」「出る」の透過プロセスを強要し、疲弊・混乱させる。
支持構造 (Support)ELO-IID 電磁気支持システムセルを物理的に床や壁から切り離し、空中(液中)に浮遊させる。物理的接触による脱走経路を断つ。
二次収容エリア (Secondary Cell)流体媒体(水、塩酸混合液など)で満たされた球形空間液体による混乱効果。常に循環させ、腐食汚染を監視する。
防御システム (Defense)80,000ルーメンの投光器システム脱走の兆候(腐食)が見られた際、瞬時に強烈な光を浴びせ、ポケット・ディメンションへ押し戻す。

3.3 それでも続く「負け戦」

これほど重厚な檻を用意しても、SCP-106の収容違反(脱走)は定期的に発生する。 鉛の層は腐食され、電磁気システムは粘液によってショートし、彼は外の世界へと滲み出してくる。財団職員にとって、106の収容室周辺の壁に「黒いシミ」が浮き出る瞬間こそが、悪夢の始まりの合図なのである。

一度脱走した彼を、武力で制圧することはほぼ不可能だ。銃弾は透過し、爆発も意味をなさない。テスラゲート(高電圧放電)による足止めが有効な場合もあるが、一時的なものでしかない。 彼を檻に戻す方法は、ただ一つ。彼の「嗜好」を利用することだけである。


第4章:大腿骨粉砕機(Femur Breaker) – 倫理の欠落した再収容手順

4.1 リコール・プロトコル(Recall Protocol)

本レポートにおいて最も忌まわしく、かつSCP財団の冷徹な倫理観(あるいはその欠如)を象徴するのが、この**「リコール・プロトコル」**である。

脱走したSCP-106は、施設内の職員を無差別に虐殺し、あるいは連れ去ろうとする。彼を自発的に収容セルへ戻らせるためには、彼が抗えない魅力的な「餌」を用意する必要がある。 その餌とは、**「若く健康な人間が、極限の苦痛に喘ぐ悲鳴」**である。106は苦痛と恐怖の匂いに敏感であり、特に「新鮮な骨折の痛み」には抗いがたい執着を見せる。

4.2 装置のメカニズム

収容セルの内部には、**「大腿骨粉砕機(Femur Breaker)」**と呼ばれる油圧式の装置が設置されている。 再収容手順は以下の通り、極めて事務的かつ残酷に実行される:   

  1. ルアー(囮)の選定: 10歳〜25歳のDクラス職員(使い捨ての実験体)が選ばれる。
  2. 準備: 収容セルの電磁石(ELO-IID)を切断し、セルを地上に降ろす。
  3. 拘束: Dクラス職員を生きたまま装置に固定する。
  4. 放送: 施設全域の放送システム(PA System)をオンにし、収容セル内の音声を全館に流す。これは106に「餌の場所」を知らせるためのディナーベルである。
  5. 執行: ボタンを押すと、油圧プレスが作動する。装置はDクラス職員の大腿骨(人体で最も硬く、折れた際に最も激痛を伴う骨の一つ)を物理的に、粉々にへし折る
  6. 誘引: 骨が砕ける鈍い音、そしてそれに続く人間の理性を超えた絶叫が施設中に響き渡る。
  7. 再収容: 苦痛の匂いと悲鳴に引き寄せられたSCP-106は、獲物を求めて収容セル内に出現する。彼がルアーを確保した瞬間、電磁石を再起動し、セルを浮遊させ、彼を再び閉じ込める。

4.3 音声記録の戦慄

この手順がいかに凄惨であるかは、流出した音声データが雄弁に物語っている。

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