序論:深淵からの視線、あるいは視ることの罪
人類の歴史において、「視覚」は生存のための最も強力な武器であった。捕食者をいち早く発見し、食料を見定め、仲間を認識する。しかし、SCP財団が管理する数多の異常存在(アノマリー)の中で、この「視覚」という生存本能を逆手に取り、不可避の死刑宣告へと変質させる存在がある。それが、SCP-096、通称「シャイガイ(The Shy Guy)」である。
私は財団のシニア研究員として、長年にわたりこの生物の異常性を研究してきた。同時に、Web上のオカルト・コミュニティにおいて、真実を虚構というオブラートに包んで警告を発するライターとしての顔も持つ。本レポートは、SCP-096に関する既知のデータ、過去の凄惨なインシデント、そしてその起源にまつわる未確定情報を包括的に統合し、現代社会において我々が直面している「情報の視認」という行為に潜む致死的なリスクを解き明かすものである。
SCP-096の恐怖は、単なる物理的な破壊力ではない。それは、一枚の写真、数秒の映像、あるいはほんの数ピクセルのノイズの中に潜み、時空を超えて観測者の喉元へ食らいつく因果の理不尽さにある。本稿が、あなたの知的好奇心を満たすとともに、不用意な「検索」に対する警告となることを願う。
第1章:羞恥する処刑人 – SCP-096の基礎データと異常性
1.1 生理的嫌悪を喚起する外見的特徴:不気味の谷の底
SCP-096は、分類上は人型実体(Humanoid)と定義されているが、その外見は人間という種の概念を嘲笑うかのような歪な特徴を有している。身長は約2.38メートルに達し、一般的な成人男性を遥かに凌駕する巨躯を持つ 。しかし、その体躯は威圧的というよりも、病的なまでの脆弱さを漂わせている。
極度の栄養失調を模した肉体
被験体の筋肉量は極めて微小であり、体脂肪率はほぼゼロに近いと推測される 。皮膚の下には肋骨の形状が鮮明に浮き上がり、四肢の関節は瘤のように突出している。この外見は、重度の飢餓状態にある死体、あるいは風化したミイラを想起させるが、その肉体には物理法則を無視した強靭な力が秘められている。皮膚は全域にわたり色素を欠損しており、月光の下では青白く、人工照明の下では白墨のような無機質な白色を呈する。体毛は頭髪を含め一切存在せず、そのツルリとした質感が、生物としてのリアリティを欠落させ、生理的な嫌悪感(Uncanny Valley Effect)を増幅させている 。
異形の四肢と顎
特筆すべきは、その腕の長さである。それぞれの腕は約1.5メートルに及び、直立した状態でも指先が膝下を大きく超え、地面に触れんばかりである 。この不釣り合いなリーチは、逃走する獲物を捕獲する際に絶望的なアドバンテージとなる。 顔面構造においては、眼球もまた色素を欠いており、白濁した瞳孔のない眼が虚空を見つめている 。現在のところ、SCP-096が視覚を有しているのか、あるいは盲目であるのかは判明していないが、後述する異常性の発動条件において「視線」が重要な意味を持つことは疑いようがない。 さらに、SCP-096の顎関節は驚異的な可動域を持つ。通常の人間と比較して約4倍の開口が可能であり、この巨大な口腔は、獲物を丸呑みにするため、あるいは悲痛な叫びを上げるために機能する 。
1.2 SCP-096 基礎ステータス・データシート
以下の表は、財団の収容プロトコルおよび過去のインシデントログから抽出された、SCP-096の物理的・特性的データをまとめたものである。
| 項目 | データ | 分析・備考 |
| オブジェクトクラス | Euclid | 非活性時は管理可能だが、トリガー発生時の収容維持は不可能に近い 。 |
| 身長 | 約 2.38 m | 個体差はなく常に一定。伸縮は見られない。 |
| 体重 | 推定 50 – 60 kg | 身長比で極端に軽量。骨密度と筋繊維の密度が異常値を示している可能性あり。 |
| 最高走行速度 | 測定不能 | 初速35km/hから開始し、ターゲットとの距離に応じて青天井に加速。マッハ数倍以上の記録あり 。 |
| 反応速度 | 即時 (0.00秒) | 「顔を見た」という事象が発生した瞬間、世界中のどこにいても感知する。 |
| 耐久性 | 物理的破壊不能 | 対戦車兵器、重機関銃の集中砲火を受けても骨格には傷一つ付かない 。 |
| 知性 | 非自律的 / 本能的 | 高度な脳機能の兆候は見られない。言語によるコミュニケーションは不可能とされる 。 |
| 活性化トリガー | 顔面の視認 | 直接視認、写真、映像を含む。芸術的描写(似顔絵)は例外 。 |
1.3 異常性の発現プロセス:死へのカウントダウン
SCP-096の行動原理は極めてシンプルかつ機械的である。それは「顔を見られること」に対する過剰防衛反応、あるいは条件反射的な殺戮プログラムのように機能する。
- フェーズ1:視認(Triggering) 対象者がSCP-096の顔を認識する。重要なのは、対象者が「SCP-096を見ている」と自覚することではなく、網膜および脳の視覚野にSCP-096の顔の情報が入力されることである 。4ピクセルのノイズであっても、それが顔の情報であればトリガーは引かれる。
- フェーズ2:苦悶(Emotional Distress) 視認が発生した瞬間、SCP-096は劇的な感情的動揺を見せる。両手で顔を覆い、首を激しく振りながら、悲痛な金切り声を上げ始める 。その声は獣の咆哮というよりは、極度のパニックに陥った人間の悲鳴に近い。この段階は約1分から2分間継続する。これは、追跡を開始するためのエネルギー充填期間、あるいは「位置情報の確定」プロセスであると推測される。
- フェーズ3:追跡(Pursuit) 苦悶の段階が終了すると、SCP-096は顔を覆っていた手を下ろし、顔を見た者(SCP-096-1)の方向へ向かって疾走を開始する 。この際、経路上の障害物は一切考慮されない。強化ガラス、鋼鉄の隔壁、山脈、深海の水圧さえも、彼の進行を止めることはできない。ただひたすらに、最短距離を直進する。
- フェーズ4:殺害(Execution) SCP-096-1に到達すると、即座に殺害行動に移る。具体的な殺害方法はデータの削除()により伏せられていることが多いが、四肢の引き裂きや捕食が行われることが示唆されている 。殺害後、SCP-096-1の遺体は痕跡を残さず消滅するケースが100%である 。
- フェーズ5:鎮静化(Reset) ターゲットの排除が完了すると、SCP-096は憑き物が落ちたかのように鎮静化し、再び大人しい状態へと戻る。その後は、本来の生息地(あるいは最も近い壁際など)へ戻ろうとする習性を見せる 。
1.4 「シャイガイ」という逆説的な恐怖
彼が「シャイガイ(恥ずかしがり屋)」と呼ばれる所以は、その異常性のトリガーが「見られること」への拒絶にあるからだ。通常、恥ずかしがり屋は隠れるか、逃げるかする。しかしSCP-096は、見られた恥ずかしさを解消するために、見た相手を物理的に抹消するという極端な解決策を選択する。
この「受動的な拒絶」が「能動的な殺意」へと変換されるメカニズムこそが、SCP-096の最大の恐怖である。彼はこちらを探さない。こちらが彼を見つけてしまった瞬間に、彼もまたこちらを見つけるのだ。これは、深淵を覗くとき、深淵もまたこちらを覗いているというニーチェの言葉を、最も即物的かつ暴力的な形で具現化した存在と言えるだろう。
第2章:逃走不可能 – 物理法則を無視した追跡能力
2.1 ターゲットに宣告される運命
あなたが不運にもSCP-096の顔を見てしまった(SCP-096-1となった)瞬間、あなたの人生における残された時間は、単純な物理演算の結果として算出可能となる。慈悲も、交渉も、隠れる場所もない。
SCP-096の追跡において最も絶望的な点は、その位置特定能力と障害物突破能力の理不尽さにある。彼にはGPSも目視確認も必要ない。あたかも、あなたと彼の間が「視線」という見えない糸で結ばれ、その糸をたぐり寄せるかのように、正確無比に位置を把握し続ける 。あなたが地下シェルターに逃げ込もうと、飛行機で空を飛ぼうと、彼はその座標へ向かって直線を引く。
2.2 速度と距離の相関:加速する死神
SCP-096の移動速度は一定ではない。ターゲットとの距離が離れていればいるほど、その速度は幾何級数的に上昇する特性を持つことが確認されている 。これは、彼が「移動」しているのではなく、「ターゲットの元へ到達する」という結果を強制するために、必要な速度を算出・実行しているようにさえ見える。
以下は、過去の実験記録およびインシデントにおける、到達時間と距離の相関データである(一部は推測値を含む)。
| ケースID | ターゲットとの距離 | 到達までの所要時間 | 推定平均速度 | 状況・備考 |
| Exp-096-Alpha | 50 m (収容室内) | 1分 (苦悶時間含む) | 35 km/h | 初期の収容違反テスト。一般的な短距離走者程度の速度。 |
| Inc-096-Road | 500 km | 約 45 分 | 660 km/h | 高速道路を走行中の車両を追跡。新幹線やスーパーカーでも逃走不可能。 |
| Doc-096-1 | 8,455 km (Tonga海溝) | 62 分 | 8,180 km/h | マッハ6.6相当。太平洋を泳いで(あるいは海面を走って)横断。水圧の影響を無視 。 |
| Hypothesis-Moon | 384,400 km (月面) | 未計測 | 未知数 | Reddit等での議論では、重力圏を離脱するほどの跳躍を行う可能性が示唆される 。 |
このデータが示す事実は、逃げれば逃げるほど、SCP-096は「速くなる」ということだ。8,000km以上離れた場所からのトリガーに対し、時速8,000kmを超える速度で接近した記録は、彼が単なる生物的な脚力で走っているのではなく、何らかの異常な運動エネルギー保存則の下で動いていることを証明している。特に、マッハ6を超える速度で移動しながら、ソニックブームによる周囲への被害(ターゲット以外への)を最小限に抑えつつ、正確にカーブを曲がり、障害物を粉砕する制御能力は、現代物理学では説明がつかない。
2.3 認識災害としての「4ピクセル」:現代社会への警鐘
SCP-096の恐怖を語る上で、「認識」の定義を再確認する必要がある。前述の通り、SCP-096は、手描きのスケッチや芸術的な描写には反応しない 。これは、情報が人間の脳というフィルターを通し、再構築される過程で、トリガーとなる異常性が失われるためと考えられている。この特性を利用し、Dクラス職員を潜水鐘で深海に降ろし、SCP-096を直接視認させながらスケッチを描かせ、そのスケッチのみを回収するという残酷な実験が行われた歴史もある 。
しかし、写真や映像といった「光学的な記録」においては、その解像度は問われない。たとえピンボケであっても、ノイズまみれであっても、そこに「SCP-096の顔」という光学情報が含まれている限り、トリガーは引かれる。これが次章で詳述する「4ピクセル」の悲劇の根幹となる。
現代のデジタル社会において、我々は日々膨大な量の画像を消費している。その背景のどこかに、彼が映り込んでいないという保証はどこにもない。あなたが何気なくスクロールしたSNSのタイムライン、友人がアップロードした旅行写真の拡大もしていない片隅に、彼が立っていたとしたら。あなたの意識がそれを「顔」として認識しなくとも、脳が視覚情報として処理した瞬間に、SCP-096は「見られた」と判断し、地球の裏側からでも駆けつけてくるのだ。
第3章:インシデント096-1-A – 「4ピクセル」の悲劇と回収記録

3.1 埋もれていた時限爆弾
SCP-096の収容史上、最も悲惨かつ教訓的であり、財団職員の間で伝説として語り継がれている事件が「インシデント096-1-A」である 。この事件の発端は、199X年にアマチュア登山家が撮影した一枚の風景写真であった。
その写真は、美しい雪山を背景にしたありふれた記念写真として、登山家の自宅の壁に何年も飾られていた。撮影者自身も、家族も、その写真に異常なものが映り込んでいるとは夢にも思っていなかった。しかし、ある日、彼が何気なくその写真の背景、雪山の斜面の一部に目をやった瞬間、数千キロメートル離れた財団の収容サイトで警報が鳴り響くこととなった。
後の画像解析により、その写真の背景には、偶然通りがかったSCP-096が写り込んでいたことが判明した。しかし、距離があまりにも遠かったため、その姿はフィルム上のわずか4ピクセル分の変色した染みに過ぎなかった 。肉眼では「雪の上のわずかな汚れ」程度にしか見えないその4つのドット。しかし、それは間違いなくSCP-096の顔の情報を保持していたのである。この写真は、数年もの間、誰の目にも留まることなく、「時限爆弾」として機能し続けていたのだ。
3.2 SCRAMBLE計画の失敗と技術的敗北
SCP-096の収容違反が発生した直後、ダン博士(Dr. Dan)指揮の下、対アノマリー機動部隊(MTF)Tau-1が展開された 。彼らには、対SCP-096用に開発された最新鋭装備「SCRAMBLE(スクランブル)」ゴーグルが支給されていた。
このゴーグルは、搭載された超高速マイクロプロセッサとAIがリアルタイムで視界内の映像を解析し、SCP-096の顔の特徴を認識した瞬間に画像処理でスクランブル(モザイク処理)をかけ、隊員が顔を視認するのを物理的に防ぐという画期的なシステムであった 。理論上、これで隊員は安全にSCP-096を制圧できるはずだった。
しかし、現実は残酷であった。現場に展開したMTF Tau-1と、上空支援を行っていたヘリコプター部隊「ビッグ・ブラザー」との間で、絶望的な通信が交わされた。
[通信ログ抜粋]
Tau-1リーダー: 「ターゲット視認! SCRAMBLE起動中……くそ、なんだこれは!?」 本部: 「どうした? 状況を報告せよ!」 Tau-1リーダー: 「効いてない! 奴が見える! 顔が……ああああっ!」 (銃声と悲鳴、肉が裂ける音) ビッグ・ブラザー: 「地上部隊が壊滅状態! 繰り返す、SCRAMBLEは機能していない! 退避しろ!」 (SCP-096の咆哮)
MTF Tau-1は、高速で接近してくるSCP-096に対し、対戦車ミサイルやガトリングガンによる集中砲火を浴びせた。ミサイルが直撃し、SCP-096の半身を吹き飛ばしたが、骨格は無傷であり、彼は痛痒を感じる様子もなく再生しながら突進を続けた 。そして、隊員たちは次々と発狂し、あるいはSCRAMBLEの故障を叫びながら虐殺されていった。
後の解析で、SCRAMBLEゴーグルの敗因が明らかになった。ゴーグルは機能していた。確かに顔を認識し、処理を行っていた。しかし、「光が目に届く速度」と「マイクロプロセッサが画像を処理する速度」の間には、埋めようのない物理的なタイムラグが存在したのだ 。
「コンピュータは速い。だが光ほどじゃない。だから網膜には一瞬、本当にコンマ何秒という時間だが、SCP-096の顔がそのまま映っていたんだ。脳がそれを意識的に理解する前だったとしても、096の敵意を引き起こすには十分だった」——ダン博士の証言
意識下で認識できずとも、網膜に光が届いた事実だけでトリガーとなる。この事実は、SCP-096に対する防御手段としての「画像処理」の限界を残酷な形で証明した。
3.3 結末と代償
SCP-096は機動部隊を壊滅させた後、一般道路を暴走し、民間人の車両を破壊しながら(その過程で赤ん坊を含む家族連れが巻き添えとなった)、ついに「4ピクセル」の写真を見た登山家の元へたどり着いた。登山家が殺害された後、SCP-096は憑き物が落ちたように大人しくなり、回収部隊によって再収容された 。
このインシデントは、実はダン博士が意図的に引き起こしたものであったことが後に示唆されている 。彼はSCP-096の危険性をO5評議会に理解させ、終了(殺処分)命令を承認させるために、あえて一般社会への被害が出る状況を作り出し、SCRAMBLEの欠陥を知りながら部隊を投入したのだ。結果として、SCP-096の終了命令は承認されたが、多くの人命と信頼が失われることとなった。
第4章:不死身の爬虫類との邂逅 – 抹殺実験記録

4.1 矛盾する怪物たちの対決:「最強の矛」対「最強の盾」
インシデント096-1-Aの後、SCP-096の終了命令が承認された。しかし、物理的破壊が不可能なこの怪物を、一体どうやって殺すのか? 財団が出した答えは、もう一つの「殺せない怪物」を利用することであった。それが、SCP-682(不死身の爬虫類)である 。
SCP-682は、あらゆる生命を憎悪し、驚異的な再生能力と適応能力を持つ巨大な爬虫類型の生物である。「顔を見たものを絶対に殺す羞恥する処刑人」と「絶対に死なない憎悪の化身」。この二体が対峙した時、何が起こるのか。実験はSCP-682の収容槽内に、SCP-096の入ったタンクを投入し、遠隔操作で解放するという形で行われた。
4.2 27時間の咆哮と惨劇
実験開始直後、SCP-096はSCP-682の視線を認識し、例のごとく激昂した。一方のSCP-682も、自身の領域に侵入した不快な存在に対して攻撃を開始した。
記録によれば、二体の怪物の戦闘は27時間にわたって続いた 。収容室内には絶え間なく悲鳴と咆哮、肉が裂ける音、骨が軋む音が響き渡った。SCP-096の攻撃力は凄まじく、SCP-682の強靭な外皮を引き裂き、肉塊へと変えていった。一説によれば、SCP-682は体質量の85%を失うほどのダメージを負ったとされる 。再生する端から削ぎ落とす、無限の破壊と再生のループ。
しかし、27時間後、音が止んだ。
センサーと監視映像が捉えたのは、部屋の隅で背を向け、うずくまってガタガタと震えるSCP-096の姿であった 。そしてその反対側には、肉塊となりながらも再生を続け、生きているSCP-682がいた。
SCP-096は「諦めた」のである。あるいは、生まれて初めて「恐怖」を覚えたのかもしれない。絶対に殺せない相手に対し、自身の存在意義である「殺害」を完遂できないという事実は、彼の精神(のようなもの)を崩壊させた。
4.3 実験の示唆するもの:怪物の心
その後の再実験において、SCP-096はSCP-682を見ることを拒否し、顔を背けて金切り声を上げるだけの反応を見せた 。通常、顔を見られれば即座に殺しにかかる彼が、SCP-682に対しては戦意を喪失したのだ。
これは、SCP-096が単なる自動的な殺戮マシーンではなく、ある種の「学習」や「感情」――特に、自身の殺害能力を超える存在に対する忌避感やトラウマ――を有していることを示唆している。SCP-682という「絶対的な生」の前に、SCP-096の「絶対的な死」の強制力は敗北した。この結果は、SCP-096の異常性が無敵ではないこと、そして彼にも「心」と呼べる何かが存在する可能性を露呈させた貴重なデータとなった。
第5章:考察 – なぜ彼は顔を隠すのか?

5.1 起源に関する諸説:雪山の呪い
SCP-096の正体については、公式な記録(カノン)は存在しないが、いくつかの有力な説が財団内外で囁かれている。
- SCP-1529「山の王」との関連説 最もドラマチックかつ説得力のある説の一つが、SCP-096はかつてエベレストの登山者であったというものだ。SCP-1529は高山に潜む人型実体で、遭難者を精神的に支配し、凍死させることを愉しむ悪意ある存在である。ある登山者がSCP-1529に遭遇し、その拷問あるいは呪いの結果、人間性を剥奪され、永遠に山(あるいは寒冷地)を彷徨う怪物へと変貌させられたという説である。 SCP-096の極端な痩身、体毛の欠如(重度の凍傷による脱落の極致)、そして「見られること」への病的な恐怖は、SCP-1529による屈辱的な支配のトラウマであると解釈できる。「二度と誰にもこの惨めな姿を見られたくない」という絶望的な願いが、アノマリーとしての特性へと昇華されたのかもしれない。
- 身体醜形障害の具現化説 SCP-096は、自身の容姿を極度に醜いと思い込む強迫観念(身体醜形障害)が、異常なレベルで具現化した存在であるという説。彼の行動原理はすべて「隠蔽」にあり、殺害はその隠蔽が破られた結果のパニック反応である。鏡を見ることさえも彼にとっては苦痛であり、自己認識の歪みが世界への攻撃性に転じている。
5.2 盲目の少女と「予期せぬ光」:救済の可能性
SCP-096には知性がないとされるが、いくつかのTale(短編小説)では、彼の内面に残る人間性が描かれている。特に有名なのが、SCP-001「夜明けの刻(When Day Breaks)」シナリオにおけるエピソード『Unexpected Light』である 。
太陽光が生物をドロドロの肉塊に変えてしまう終末世界で、SCP-096は一人の盲目の少女と出会う。少女は目が見えないため、SCP-096の顔を見ることがなく、したがってトリガーを引くことがない。SCP-096はこの少女に対して攻撃性を見せず、むしろ彼女を外敵から守り、寄り添うような行動をとる。 この物語は、SCP-096が求めているのが「殺戮」ではなく、単に「拒絶されないこと」や「平穏」であることを示唆している。彼にとって、視線は暴力であり、盲目の少女だけが彼を「怪物」としてではなく「存在」として受け入れてくれた唯一の他者だったのだ。このエピソードは、彼の殺意が不可抗力的な防衛本能であることを強調し、その悲哀を際立たせる。
5.3 監視社会へのアンチテーゼ:現代の寓話として
哲学的な視点で見れば、SCP-096は現代の「監視社会(パノプティコン)」に対する究極のカウンター存在とも言える。街中に監視カメラが溢れ、誰もがスマートフォンで撮影を行い、SNSで共有する時代。我々は常に「見られる」リスクに晒され、情報は瞬時に拡散される。
SCP-096は、そのような「視線」の一方的な暴力性を逆手にとり、見る側に致命的な罰を与える存在だ。「4ピクセル」の事件が示したように、情報はもはや人間の知覚を超えて拡散し、制御不能となる。我々が認識していないだけで、インターネットという広大なデジタルの海の中には、無数の「SCP-096の顔」に相当する致死的なミームやトリガーが潜んでいるかもしれない。彼が顔を隠すのは、自分自身の醜さへの恥じらいなのか、それとも、際限なく全てを暴き出そうとする現代社会から自身の魂(プライバシー)を守るための、あまりにも過激で悲しい自衛手段なのだろうか。
管理人コメント
今回のSCP-096のレポート作成にあたり、改めて膨大な資料や実験ログを読み返していて感じたのは、彼(あるいはそれ)に対する「同情」に近い感情と、それを遥かに上回る「生理的な恐怖」のアンビバレンスでした。
SCP-096の魅力は、彼が「シャイガイ」というある種可愛らしい、人間味のあるあだ名で呼ばれながらも、その実態が制御不能な自然災害と同義であるというギャップにあります。「見られたくない」「そっとしておいてほしい」。そんな、誰しもが持つ内向的な願望が、ひとたび破られれば音速で地球を駆け巡って殺しに来るという極端さ。これは、SNS疲れや承認欲求の裏返しとして、他者の視線を恐れる現代人の深層心理にある恐怖を具現化したもののようにも思えます。
執筆中、PCのモニターに不意にノイズが走ったり、参考画像の読み込みが遅れたりするたびに、背筋が凍る思いがしました。もし、ネットの海から拾ってきた資料画像のどこかに、あの「4ピクセル」が紛れ込んでいたら……。もちろん、そんなことはないはずですが(財団の検閲を信じましょう)、この記事を読んだあなたが、ふと古いアルバムを見返したとき、雪山の写真の背景に「何か」を見つけないことを祈っています。
くれぐれも、興味本位で「元の画像」を探そうなどとはしないでくださいね。
参考文献・ソース一覧
本レポートの執筆にあたり、以下のSCP財団データベース、実験記録、および関連Taleを参照した。これらの資料は、SCP-096の多面的な理解に不可欠である。
- SCP-096 – The “Shy Guy” (シャイガイ)
- SCP財団本家記事。基本的な異常性、収容プロトコル、回収記録についての一次資料。
- Incident 096-1-A
- 「4ピクセル」の写真と、MTF Tau-1の壊滅、SCRAMBLE装備の失敗、ダン博士の関与に関する詳細なインシデントレポート。
- Experiment Log T-98816-OC108/682
- SCP-682(不死身の爬虫類)とのクロステスト記録。096が戦闘を放棄し、トラウマを植え付けられた経緯について。
- Tale: Unexpected Light
- 「夜明けの刻(When Day Breaks)」カノンにおける、盲目の少女との交流と救済を描いた物語。
- Tale: SCP-1529 – King of the Mountain
- SCP-096の起源説としての参照。エベレストにおける「山の王」との遭遇と変異の仮説。
- Short Film: SCP-096 | The Short Film (by MrKlay)
- インシデント096-1-Aを基に制作された、極めて高クオリティなファンメイドフィルム。視覚的な恐怖描写の参考として。
- Various SCP-096 Tests
- 盲目の被験者や動物を用いた実験ログ。視覚認識の定義に関する補足資料。
警告: 本記事に含まれる画像・映像のリンク、および描写はすべて財団の検閲済み、または芸術的描写(Artistic depiction)による再現イメージです。実物のSCP-096の画像は含まれていませんので、ご安心ください。scpcb.fandom.comSCP-096 – Official SCP – Containment Breach Wiki – Fandom新しいウィンドウで開くscp-wiki.wikidot.comSCP-096 – The SCP Foundation – Wikidot新しいウィンドウで開くscproleplay.fandom.comSCP-096 “Shy Guy” – SCP: Roleplay Wiki – Fandom新しいウィンドウで開くscp-db.fandom.comSCP-096 – SCP Database Wiki – Fandom新しいウィンドウで開くcontainmentbreach.fandom.comSCP-096 | SCP – Containment Breach Wiki – Fandom新しいウィンドウで開くalbertsstuff.fandom.comSCP-096 – Albertsstuff Wiki – Fandom新しいウィンドウで開くreddit.comScp 096 is fast as fuck : r/SCP – Reddit新しいウィンドウで開くscp-wiki.wikidot.comIncident 096-1-A – SCP Foundation新しいウィンドウで開くreddit.comNow thinking about it, there’s a plot hole in the SCP-096 short film… – Reddit新しいウィンドウで開くreddit.comIf someone looked at SCP-96’s photo from Pluto HOW MUCH time would it take him to die?新しいウィンドウで開くlistofdeaths.fandom.comIncident 096-1-A | List of Deaths Wiki – Fandom新しいウィンドウで開くyoutube.comWhere does the “four f*****g pixels” meme come from? #drsherman #site42 #scp #scpfoundation – YouTube新しいウィンドウで開くreddit.comFound the EXACT location of the 096 “4 pixels” image : r/SCP – Reddit新しいウィンドウで開くreddit.comCan someone sum up the story of 096? : r/SCP – Reddit新しいウィンドウで開くunofficialscpwikibyndyt.fandom.comExperiment-Log-T-98816-oc108-682 | SCP Foundation Wiki – Fandom新しいウィンドウで開くscp-wiki.wikidot.comExperiment Log T-98816-OC108/682 – SCP Foundation新しいウィンドウで開くscp-roleplay.fandom.comSCP-096 vs SCP-682 – Rematch of the Century – SCP Roleplay Wiki – Fandom新しいウィンドウで開くreddit.comSCP-682 sees SCP-096’s face…. : r/whowouldwin – Reddit新しいウィンドウで開くdr-bob-scp.fandom.com新しいウィンドウで開くdr-bob-scp.fandom.comSCP-096 (The Shy Guy) – Dr Bob SCP Wiki – Fandom新しいウィンドウで開くreddit.comScp 096 origin ? : r/SCP – Reddit新しいウィンドウで開くreddit.comWas SCP-096 originally human? Or were they always like that? – Reddit新しいウィンドウで開くreddit.comWinter is here and I have become scp-1529 king of the mountain – Reddit新しいウィンドウで開くreddit.comWhat if SCP 096 was given a blind pet? – Reddit新しいウィンドウで開くreddit.comI read a SCP-001 “When Day Breaks” take about Shy Guy… – Reddit新しいウィンドウで開くscp-wiki.wikidot.comUnexpected Light – The SCP Foundation – Wikidot新しいウィンドウで開くscp-wiki.wikidot.comSCP-1529 – The SCP Foundation – Wikidot新しいウィンドウで開くreddit.com096’s cousin in the mountain – SCP [[1529]] – Reddit新しいウィンドウで開くreddit.comAt the end of Mr Klay’s 096 short film, this is the last image in the video. It looks like someone trying to piece together the deaths of the family in that film, any ideas or thoughts on this? : r/SCP – Reddit新しいウィンドウで開くkickstarter.comThe Short Film – SCP-096 | The Short Film by Klay Abele — Kickstarter新しいウィンドウで開くscp-roleplay.fandom.comVarious SCP-096 Tests – SCP Roleplay Wiki – Fandom新しいウィンドウで開く新しいウィンドウで開く新しいウィンドウで開く新しいウィンドウで開く新しいウィンドウで開く新しいウィンドウで開く新しいウィンドウで開く新しいウィンドウで開く新しいウィンドウで開く新しいウィンドウで開く新しいウィンドウで開く新しいウィンドウで開く新しいウィンドウで開く新しいウィンドウで開く新しいウィンドウで開く新しいウィンドウで開く新しいウィンドウで開く新しいウィンドウで開く新しいウィンドウで開く新しいウィンドウで開く新しいウィンドウで開く新しいウィンドウで開く新しいウィンドウで開く新しいウィンドウで開く新しいウィンドウで開く新しいウィンドウで開く新しいウィンドウで開く新しいウィンドウで開く新しいウィンドウで開く新しいウィンドウで開く新しいウィンドウで開く新しいウィンドウで開く新しいウィンドウで開く新しいウィンドウで開く新しいウィンドウで開く新しいウィンドウで開く新しいウィンドウで開く新しいウィンドウで開く新しいウィンドウで開く新しいウィンドウで開く新しいウィンドウで開く新しいウィンドウで開く新しいウィンドウで開く
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