SCP-096 “The Shy Guy”:羞恥する処刑人と視線による因果の連鎖に関する包括的調査報告書

序論:深淵からの視線、あるいは視ることの罪

人類の歴史において、「視覚」は生存のための最も強力な武器であった。捕食者をいち早く発見し、食料を見定め、仲間を認識する。しかし、SCP財団が管理する数多の異常存在(アノマリー)の中で、この「視覚」という生存本能を逆手に取り、不可避の死刑宣告へと変質させる存在がある。それが、SCP-096、通称「シャイガイ(The Shy Guy)」である。

私は財団のシニア研究員として、長年にわたりこの生物の異常性を研究してきた。同時に、Web上のオカルト・コミュニティにおいて、真実を虚構というオブラートに包んで警告を発するライターとしての顔も持つ。本レポートは、SCP-096に関する既知のデータ、過去の凄惨なインシデント、そしてその起源にまつわる未確定情報を包括的に統合し、現代社会において我々が直面している「情報の視認」という行為に潜む致死的なリスクを解き明かすものである。

SCP-096の恐怖は、単なる物理的な破壊力ではない。それは、一枚の写真、数秒の映像、あるいはほんの数ピクセルのノイズの中に潜み、時空を超えて観測者の喉元へ食らいつく因果の理不尽さにある。本稿が、あなたの知的好奇心を満たすとともに、不用意な「検索」に対する警告となることを願う。


第1章:羞恥する処刑人 – SCP-096の基礎データと異常性

1.1 生理的嫌悪を喚起する外見的特徴:不気味の谷の底

SCP-096は、分類上は人型実体(Humanoid)と定義されているが、その外見は人間という種の概念を嘲笑うかのような歪な特徴を有している。身長は約2.38メートルに達し、一般的な成人男性を遥かに凌駕する巨躯を持つ 。しかし、その体躯は威圧的というよりも、病的なまでの脆弱さを漂わせている。   

極度の栄養失調を模した肉体

被験体の筋肉量は極めて微小であり、体脂肪率はほぼゼロに近いと推測される 。皮膚の下には肋骨の形状が鮮明に浮き上がり、四肢の関節は瘤のように突出している。この外見は、重度の飢餓状態にある死体、あるいは風化したミイラを想起させるが、その肉体には物理法則を無視した強靭な力が秘められている。皮膚は全域にわたり色素を欠損しており、月光の下では青白く、人工照明の下では白墨のような無機質な白色を呈する。体毛は頭髪を含め一切存在せず、そのツルリとした質感が、生物としてのリアリティを欠落させ、生理的な嫌悪感(Uncanny Valley Effect)を増幅させている 。   

異形の四肢と顎

特筆すべきは、その腕の長さである。それぞれの腕は約1.5メートルに及び、直立した状態でも指先が膝下を大きく超え、地面に触れんばかりである 。この不釣り合いなリーチは、逃走する獲物を捕獲する際に絶望的なアドバンテージとなる。 顔面構造においては、眼球もまた色素を欠いており、白濁した瞳孔のない眼が虚空を見つめている 。現在のところ、SCP-096が視覚を有しているのか、あるいは盲目であるのかは判明していないが、後述する異常性の発動条件において「視線」が重要な意味を持つことは疑いようがない。 さらに、SCP-096の顎関節は驚異的な可動域を持つ。通常の人間と比較して約4倍の開口が可能であり、この巨大な口腔は、獲物を丸呑みにするため、あるいは悲痛な叫びを上げるために機能する 。   

1.2 SCP-096 基礎ステータス・データシート

以下の表は、財団の収容プロトコルおよび過去のインシデントログから抽出された、SCP-096の物理的・特性的データをまとめたものである。

項目データ分析・備考
オブジェクトクラスEuclid非活性時は管理可能だが、トリガー発生時の収容維持は不可能に近い 
身長約 2.38 m個体差はなく常に一定。伸縮は見られない。
体重推定 50 – 60 kg身長比で極端に軽量。骨密度と筋繊維の密度が異常値を示している可能性あり。
最高走行速度測定不能初速35km/hから開始し、ターゲットとの距離に応じて青天井に加速。マッハ数倍以上の記録あり 
反応速度即時 (0.00秒)「顔を見た」という事象が発生した瞬間、世界中のどこにいても感知する。
耐久性物理的破壊不能対戦車兵器、重機関銃の集中砲火を受けても骨格には傷一つ付かない 
知性非自律的 / 本能的高度な脳機能の兆候は見られない。言語によるコミュニケーションは不可能とされる 
活性化トリガー顔面の視認直接視認、写真、映像を含む。芸術的描写(似顔絵)は例外 

1.3 異常性の発現プロセス:死へのカウントダウン

SCP-096の行動原理は極めてシンプルかつ機械的である。それは「顔を見られること」に対する過剰防衛反応、あるいは条件反射的な殺戮プログラムのように機能する。

  1. フェーズ1:視認(Triggering) 対象者がSCP-096の顔を認識する。重要なのは、対象者が「SCP-096を見ている」と自覚することではなく、網膜および脳の視覚野にSCP-096の顔の情報が入力されることである 。4ピクセルのノイズであっても、それが顔の情報であればトリガーは引かれる。   
  2. フェーズ2:苦悶(Emotional Distress) 視認が発生した瞬間、SCP-096は劇的な感情的動揺を見せる。両手で顔を覆い、首を激しく振りながら、悲痛な金切り声を上げ始める 。その声は獣の咆哮というよりは、極度のパニックに陥った人間の悲鳴に近い。この段階は約1分から2分間継続する。これは、追跡を開始するためのエネルギー充填期間、あるいは「位置情報の確定」プロセスであると推測される。   
  3. フェーズ3:追跡(Pursuit) 苦悶の段階が終了すると、SCP-096は顔を覆っていた手を下ろし、顔を見た者(SCP-096-1)の方向へ向かって疾走を開始する 。この際、経路上の障害物は一切考慮されない。強化ガラス、鋼鉄の隔壁、山脈、深海の水圧さえも、彼の進行を止めることはできない。ただひたすらに、最短距離を直進する。   
  4. フェーズ4:殺害(Execution) SCP-096-1に到達すると、即座に殺害行動に移る。具体的な殺害方法はデータの削除()により伏せられていることが多いが、四肢の引き裂きや捕食が行われることが示唆されている 。殺害後、SCP-096-1の遺体は痕跡を残さず消滅するケースが100%である 。   
  5. フェーズ5:鎮静化(Reset) ターゲットの排除が完了すると、SCP-096は憑き物が落ちたかのように鎮静化し、再び大人しい状態へと戻る。その後は、本来の生息地(あるいは最も近い壁際など)へ戻ろうとする習性を見せる 。   

1.4 「シャイガイ」という逆説的な恐怖

彼が「シャイガイ(恥ずかしがり屋)」と呼ばれる所以は、その異常性のトリガーが「見られること」への拒絶にあるからだ。通常、恥ずかしがり屋は隠れるか、逃げるかする。しかしSCP-096は、見られた恥ずかしさを解消するために、見た相手を物理的に抹消するという極端な解決策を選択する。

この「受動的な拒絶」が「能動的な殺意」へと変換されるメカニズムこそが、SCP-096の最大の恐怖である。彼はこちらを探さない。こちらが彼を見つけてしまった瞬間に、彼もまたこちらを見つけるのだ。これは、深淵を覗くとき、深淵もまたこちらを覗いているというニーチェの言葉を、最も即物的かつ暴力的な形で具現化した存在と言えるだろう。

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