高さ2メートルの黒い塀がすべてを覆う──不可視の家
都内某所──駅から徒歩10分ほどの住宅街を抜けた先に、突如として現れる異質な空間がある。周囲の風景と明らかに異なるその場所は、まるで“世界から切り離された一角”のように、異様な静寂と重圧に包まれている。
最も特徴的なのは、その家を完全に取り囲む高さ2メートル超の“黒い塀”だ。漆黒の無機質なコンクリートが道路沿いに連なり、門や窓は一切なく、外から中の様子を窺うことはできない。さらに不気味なのは、塀の一部に取り付けられた監視カメラ──常に周囲を見張っているかのように、無言の圧力を放っている。
地図アプリでその座標を調べてみても、該当エリアは“空き地”と表示されるばかりで、航空写真にも不自然なブラー処理が施されているように見える。一見して都市の空白、あるいは“隠された場所”のような雰囲気を醸しており、まさに“地図に載っていない家”と表現するにふさわしい。
夜になると、黒い塀の向こう側から淡い灯りが漏れることがあるという。目撃した者の話によれば、「誰かが歩き回る足音」や「女のすすり泣く声」が聞こえてくることもあるらしい。だが、そこには誰も住んでいない──というのが公式な見解だ。
実在しながら存在を否定されるこの空間に、多くの都市探訪者や心霊ハンターが惹かれ、足を踏み入れてきた。しかし、塀の内側へ本当に入った者の“その後”については、極端に情報が少ないのだ……。
柵の中に入った者の証言──記憶が曖昧になる体験

YouTuber「M.T」は2022年、都市伝説を検証する企画の一環としてこの“黒い塀の家”を訪れた。夜間に潜入を試みた彼は、塀の裏手にあった崩れたブロック塀の隙間から中へ入ることに成功。だが、動画として公開された内容は奇妙なものだった。
撮影映像の冒頭は、確かに中へ入る様子が映っていた。しかし、その後数秒間のブランクがあり、映像が再開されたときにはすでに外に出ていた。「M.T」は説明を求められた際、「なぜか中の記憶がまったく残っていない」と語っている。彼によれば、気がついたときには塀の外に立っており、手には“黒い砂のようなもの”がこびりついていたという。
さらに不可解なのは、使用していたSDカードが読み込み不良を起こし、以降の撮影データがすべて破損していたこと。カードリーダーに差し込んだ瞬間、「焼け焦げたような臭い」が漂ったという証言まで残っている。
こうした“記憶が飛ぶ”“記録が残らない”といった報告は他にも多数ある。中には帰宅後、毎晩同じ夢──黒い塀の内側を彷徨う夢──を見るようになったという投稿もあり、それは徐々に現実との境界を曖昧にし、精神的に不安定になる引き金となっているようだ。
黒い塀と“消えた戸籍”──過去の住人に関する調査
かつてこの地には、“柴田”という姓の家族が暮らしていたという。1985年発行の住宅地図には確かに木造住宅が記載されており、当時は開けた土地だったことが分かる。
しかし、1990年代に入ると突如としてその家は地図上から“塀”へと表記が変わり、それ以降、その敷地内にどのような構造物があるのかの情報は更新されていない。最も不可解なのは、住民だった柴田一家の戸籍情報が役所のデータベースから削除されているという点だ。
地元住民の一人は、「突然いなくなった」「夜逃げにしてはあまりに静かだった」と語っている。引っ越しのトラックも見ていない。郵便物は数ヶ月にわたり溜まり続け、やがて誰かが片付けたという話もあるが、それが誰だったのかは誰も知らない。
さらに驚くべきことに、当時の自治体に勤めていた元職員が匿名で語った証言では、「柴田一家の戸籍除籍データが破損しており、紙の原本すら廃棄された記録になっている」とのこと。
まるで、“彼らが存在していた痕跡そのものが意図的に抹消された”かのような印象を受ける。
門柱に残る“赤い手形”と封じの札

2020年、心霊系SNSアカウントが投稿した一枚の写真が注目を集めた。それは黒い塀の裏手に位置する金属門の写真だった。門には複数の“赤い手形”が押されており、指の形まではっきりと残っている。
さらに門の上部には、半ば剥がれかけた“お札”が貼られていた。和紙に書かれた文字は滲んでおり判読不能だったが、一部には梵字のような文様や「封」「禁」などの漢字が確認できたという。
宗教系の研究者によれば、これは明治期の廃仏毀釈の際に破壊された寺院の敷地や、処刑場跡などに貼られた“封印札”に類似しており、「ここに人を立ち入らせてはならない」という結界的意味合いを持つ可能性があるという。
この門はその後、金属の板で覆われ、現在は確認できなくなっている。
ドローン映像に映った“家の中の異形”
2022年、匿名掲示板に一本の動画がアップされた。タイトルは「黒い塀の上からの映像」。そこには、ドローンによって塀の上から撮影された映像が映し出されていた。
最初はただの中庭のように見える空間だった。しかし映像が進むにつれ、そこに“人形”のようなものが10体以上、円形に並べられているのが映った。
中には髪が異常に長く、顔がこちらを向いているように見える個体もあったが、フレームを変えると消えている。まるで、見る角度によって“存在がズレる”かのような描写だった。
この動画はアップロードから数時間で削除され、投稿者のアカウントも凍結。その後、保存したユーザーの一部が「再生するたびに画面が点滅し、削除もできなくなった」と報告している。
映像は現在も再掲されることはなく、真偽不明のまま都市伝説と化している。
場所特定を試みた者たちの末路──ネット掲示板の封鎖と削除

この黒い塀の家の場所を特定しようとする試みは、何度も行われてきた。だが、そのたびに何らかの妨害が入る。
掲示板のスレッドは「荒らし報告により削除」とされ、座標を記載した投稿は数時間以内に消されていく。Googleマップにピンを立てても、現地に着くとそこはただの空き地であり、塀は見つからない──という話も多い。
しかし、現地を訪れた者の中には「確かに塀を見た」「写真を撮ったが保存されていなかった」と語る人もいる。彼らは共通して「その場所に近づくと、耳鳴りと吐き気がした」と証言している。
ネット上での言論が封じられていく様子は、まるで何か“公開を嫌がる存在”が介在しているかのようだ。
帰れなくなる、戻れなくなる──“入ったら終わり”という噂の本質
この家に関する最も恐ろしい噂──それは、「一度中に入った者は、帰ってきても“自分ではなくなる”」というものだ。
中に入った者の多くが「再び入りたい」という衝動に駆られるようになる。夢の中で何度も塀の中を歩かされ、やがて現実と非現実の境界が曖昧になっていく。
ある投稿者は、動画内でこう語っていた。「あそこに行ってから、家族の顔が“他人”に見えるようになった。感情がない。自分の声すら、誰かのもののように聞こえるんだ」
そして、最後の言葉としてこう残している──
「今度、もう一度入ってみる。たぶん、帰ってこなくても構わない」
それ以来、彼のアカウントは更新されていない。
投稿主コメント:
この話、書いてて本当に“外からの音”が聞こえなくなる瞬間があって、少し怖かった。黒い塀、という日常にありそうなモチーフなのに、ここまで人の心理を侵食してくる感じ、ヤバい。夢の中でもう見たことあるような気がしてくる。
あと、家って本来は“帰る場所”のはずなのに、この話では“戻れなくなる場所”に変わってる。そこがめちゃくちゃ不安になるし、怖い。こういう話、これからも追っていきたい。
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