深夜、あの路地に“人の顔をした犬”がいた。
1990年、ある夏の深夜。
東京都の住宅街で、中学生の女子生徒が「うぅ……おい、待て」と低い声を聞いた。
振り返ると、そこには黒い雑種犬――
いや、犬なのに、顔が人間の男の顔をしていた。
口が動いた。「にげても、ムダだよ」
彼女は絶叫し、全速力でその場を離れた。
しかし振り返っても、そこに追ってくる姿はなかったという。
これが、のちに“人面犬”と呼ばれる怪異の、最初期の報告の一つだった。
第1章:人面犬とは何か?都市伝説の起源と意味
人面犬(じんめんけん)とは、人間の顔を持つ犬の怪異である。
1990年前後、日本全国で子どもたちの間に広まり、テレビや書籍でも特集されるようになった。
📚 起源
正確な発祥は不明だが、最初に大きな話題となったのは1989〜1990年頃。
主に以下の特徴を持つ:
- 外見は黒または茶色の中型犬
- 顔が中年男性の人間の顔
- 言葉を発する場合もある(「うるせぇな」「ついてくるな」など)
- 追いかけてくるが、途中で消える
- 夜間、住宅街・公園・川沿いに出現しやすい
🧠 なぜ“犬に人間の顔”?
人間の顔というのは、進化的にも本能的にも「特別な情報」を含む。
それが本来“人でない存在”に現れることで、強い恐怖を呼び起こす。
第2章:ブームの時代――都市伝説の黄金期
1990年代初頭、日本のメディアでは数多くの都市伝説が特集された。
📰 テレビと雑誌の影響
- フジテレビ『奇跡体験アンビリバボー』などで特集
- 学研の『ムー』や、学習雑誌の“こわい話特集”などで全国に拡散
- 小中学生の間で「見たことある」「近くに出た」と噂が急増
🧒 子どもたちの口伝が広げた
- 学校での「昨日〇〇公園に出たらしい」
- 放課後の肝試しで「人面犬が出る場所」に行くという風習
- 複数の子どもたちの証言が“都市伝説”として強化されていった
第3章:全国に残る“目撃談”の数々
以下は、実際に記録されたとされる人面犬の目撃例である。
🗾 東京都・八王子(1991年)
- 夜10時ごろ、歩道橋の上で男の子が犬に追いかけられる
- 飼い犬のようだが、顔が笑っていたという
🗾 北海道・旭川市(1990年)
- 冬の夜、除雪車が通った直後の道路で
- 白い中型犬が雪を踏みしめながら歩いていたが、すれ違った瞬間、「お疲れさま」と言った
🗾 大阪府・泉佐野市(1992年)
- ある女性が自転車で夜道を走っていたところ、後ろから犬の足音が近づく
- 犬だと思って振り返ると、サラリーマン風の顔が口をパクパク動かしていた
🗾 福岡県・久留米市(1994年)
- ゴミ置き場の横でうずくまる黒い犬を見つけ、近づいたところ
- 「やめとけ、やめとけって……」というかすれた声が聞こえた
第4章:なぜ“人の顔”が怖いのか
🧠 心理学的観点:“不気味の谷現象”
人間の顔に“近いが完全ではない存在”は、人間に恐怖や不快感を与える。
この効果を「不気味の谷」と呼ぶ。
人面犬は、“犬という異質な存在”に人の顔がついていることで、この現象を強烈に引き起こす。
☯️ オカルト的観点:地縛霊や呪われた憑依
- 犬が人間の霊を取り込んだ
- 実験動物の成れの果て
- 都市に彷徨う浮遊霊が犬の体に宿った
こういった説明も一部のスピリチュアル・オカルト愛好家の間では語られている。
第5章:なぜ“消えなかった”のか
🧠 都市伝説としての完成度
- 身近な存在(犬)× 異質な要素(人の顔)=記憶に残る
- 子どもたちの好奇心と恐怖のバランスが絶妙
- 「怖いけど笑える」側面が、記憶の風化を防いだ
🌐 ネット時代の“再燃”
- 2000年代、2ちゃんねるやブログ文化で再登場
- 「現代の目撃情報」がSNSでもバズる
- AI生成画像やフィクション動画で“新しい命”を得た怪異として復活中
第6章:現代の“再目撃”とネット創作
2020年代以降、TikTokやYouTube Shortsなどでも「人面犬」タグが人気化。
🎥 有名な投稿例
「深夜に散歩してたら、街灯の下で“それ”は立っていた。
犬……だと思った。でも目が合った。人間の顔だった。
スマホを構えると、笑った」
第7章:実録“創作怪談”二編
📖 【短編1】追いかけてくる声
私は中学生の頃、塾の帰り道に“それ”に会った。
薄暗い歩道、背後から「おい、ちょっと待てよ」と男の声。
振り返ると、真っ黒な犬。
だが顔が、まるで中年男で、笑っていた。
逃げても逃げても「まだだよ」「にげちゃだめだよ」と追いかけてくる声が止まない。
家に着いた時、母に言われた。
「さっき玄関の前に、中年の男が四つん這いで立ってたのよ」
📖 【短編2】バス停の怪異
深夜のバス停。
誰もいないと思って座っていたら、隣に犬がいた。
しかし、妙に人間臭い。
見ると、顔が……私と同じ顔だった。
その犬は、こう言った。
「これから代わってもらうよ」
終章:人面犬は今もそこにいる
人面犬は、今でも時折ネットに目撃情報が投稿される。
ある者はそれをフェイクと笑い飛ばす。
ある者は「また出たのか」と真顔で呟く。
だが一つだけ確かなことがある。
“人の顔を持った犬”という存在は、人間の想像力に巣食い、今もあなたの隣に潜んでいるかもしれない。
🖋 投稿者コメント
人面犬は、ただの都市伝説と片付けられるだろう。
だがその目撃例は、意外にも一貫性があり、奇妙にリアルだ。“犬に人の顔”――それは、私たちが抱く最も原初的な違和感のかたち。
あなたが夜道で犬に出会ったとき。
もし、その顔が“人間”だったなら……。どうか、目を逸らさずに確認してほしい。
あなたの顔をしていないことを、祈って。
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